お題02「略奪愛…それもいいかもね」
素敵だと思わない?
僕は学校にいる間のほとんどを応接室ですごす。もちろん授業も出ないわけじゃない。だけど、執務机を覆うほど未処理の書類をつまれたら、そこで書類整理をしなければならない。今日も、僕はこの場所でこのイスに座ってこの机に向かっている。
何度めのチャイムが鳴っただろう。応接室前の廊下はたいしたことないけど、窓の外は騒がしい。今この下には、学校生活の1日を終えた生徒たちで溢れている。いつもは軽い足取りで帰宅する生徒だが、今日はいささか鈍い。明日からの定期テストが、足を重くさせている原因だろう。部活動も停止となる今、あの野球バカも赤点をとった時のことを考えて今日くらいは勉強するはずだ。
イスを少し引き窓の外を見れば、噂の野球バカが見えた。隣にはいつも一緒に群れている二人がいる。そういえば、テスト前はいつも沢田の家で勉強していると、いつだったか言っていた。その時の僕は、溜まりすぎた書類の一枚一枚に目を通していたので、相槌打つくらいしかしていなかったと思う。
その時僕の頭にあるものが浮かび上がった。なぜ彼は、僕ではなく沢田たちと勉強をしようとするのかということ。僕は群れるのが嫌いだし、勉強なんて一人の方がはかどると思っている。だけど…いつもはどれだけ拒もうが隣にいようとする彼が今日はいない。部活のない放課後は、いつもこの応接室にやってくるのに。今日は声をかけていくことすらしなかった。
僕は、彼がこのまま離れていけばいいのにと思う。応接室に勝手に居座らず、廊下で出会っても声をかけてくることもせず、僕を抱きしめたり、僕にキスをしたりもせず。ただの風紀委員長と学校の生徒に戻れば良いと思う。しかし思えば思うほど、心の底にある苛立ちが消えることは無い。
…あぁそうか。そういうことなんだね。スッと心が晴れた。僕の行き着いた答えは、よく考えればあまりにも簡単なものだった。
「略奪愛…それもいいかもね」
僕は彼に向けて呟くと、また書類に目を向けた。この開け放たれた窓から、この言葉が彼に届いたら。君は一体どういう反応を示すのかな。